Vindauga
キーワード
「窓」「社会の高解像度化」「都市や社会における過度な秩序化」
作品について
背景
- 社会の高解像度化
近年、技術の進歩により、映像や写真、オーディオの高解像度化が進んでいる。これは、実際の映像や音を忠実に再現するという意味では画期的な技術だ。しかし、この高解像度化の波に反して、フィルムカメラやコンデジ、レコードなどの低解像度の媒体が再び注目されている。最近、若者の間で頻繁に使用される「エモい」という言葉が象徴するように、現代の情報に溢れる社会に疲弊した人々がノスタルジア的な感情によって得られる安心感や温もりを求める傾向があるのではないだろうか。
さらに、社会の高解像度化を語る上で欠かせないものとして、SNSが挙げられる。SNSによって、ユーザーは私生活や思想を簡単に発信できるようになった。これも一種の高解像度化であると私は考える。近年では、自分自身と他人の比較によって気疲れする人が後を絶たず、デジタルデトックスという言葉が生まれるほど深刻な社会問題となっている。
- 都市や社会における過度な秩序化
現代のビル建築は左右対称や規則的なデザインが主流となっているが、これは西洋化の影響によるものである。かつての日本では、自然との調和という観点から、非対称的なものに美しさを見出してきた。しかし、明治時代の文明開化に伴い、積極的に西洋文化を輸入したことで近代化が進んだという歴史的な経緯があり、その後の日本の建築にも大きな影響を与えた。しかし、現代のビルからは、デザインの単調さによる記憶への残りづらさや、規則的すぎるが故の気味の悪さといったネガティブな印象さえ受けてしまう。その中でもビルの「窓」は、その形状や配置によって建築の印象を大きく左右する重要な要素である。
このような過剰に秩序化された都市は、行き過ぎた規則や暗黙のルールによって感じる息苦しさに通ずるものがあるのではないだろうか。
目的
- 社会の高解像度化へのアンチテーゼ(自分自身)
一部映像素材における情報の解像度を下げることで、現代社会の高解像度化に対するネガティブな感情を作品に昇華させる。
- 新たな視点を提供(鑑賞者)
窓のガラス部分に映像を合成し、規則的な部分と自然物の対比や融合を表現することで、現代社会の息苦しさを感じさせるデザインに対する新たな視点を提供する。
成果物
- アニメーション動画:1080×1920(縦型動画)
- 画像素材:窓をメインとして撮影したビルの画像
- 映像素材:ビルと対比になる映像
- 画像素材に対してスケール感や性質の異なるもの。
- ドットモザイク加工を加えたもの。
タイトル
WINDOW RESEARCH INSTITUTE「VOL.0 対照語源学からみる諸言語におけるまど 」では、英語の「まど」windowは、古代北欧語vindaugaに由来し、「風の目」を意味する。との記載がある。
このことから、私は現代社会の高解像度化や過度な秩序化によって生じる息苦しさに対し、新たな気づきや視点を提供することで新しい風を吹かせるといった意味を込めて、「Vindauga」というタイトルを選んだ。
コンセプト
- 規則的な窓の配置と自然物の対比
窓の規則的な配置を活かしつつ、ガラス部分に自然物の映像を合成することで、無機質で規則的な窓と有機的な自然の対比と融合を感じさせる作品を制作する。
- 情報の解像度の抑制
高解像度社会に対するアンチテーゼとして、合成する映像素材にはエフェクトを加えることで抽象的なものにする。
ブラッシュアップ
- 修正前
- ピクセル(正方形)
→小さな画面で見た際にピクセル感が伝わりづらい。
- 作品全体に加えたエフェクト
→メリハリがなく、伝えたい部分が不明確。
- 修正後
- 円形のドットに変更
→ドット同士に隙間が生まれ、ドットであることがわかりやすい。
- エフェクトを動画素材のみに限定
→メリハリを付けつつ、伝えたい部分の明確化。
調査
窓の語源
ノスタルジア的な感情を求める若者
- 若者のレトロ商品における利用動機に関する研究
- ノスタルジアの機能については、「ポジティブ感情」、「自己肯定感の維持・向上」、「社会的絆の強化」、「人生の意味付け」が指摘されている(Sedikides, Wildschut, Gaertmer, Routledge, &Arndt, 2008)。
- 「個人的ノスタルジア(personal nostalgia)」と「歴史的ノスタルジア (historical nostalgia)」に分類できるとした。前者は、個人的な出来事の記憶に基づき、自分自身の過去における心地よい部分から生じる懐古感情であり、後者は、記憶がないにも関わらず、自分自身が生まれる以前の古き良き時代の歴史的物事や人物に対して生じる懐古感情である。
中平卓馬, 森山大道 「アレ・ブレ・ボケ」
- artscape|アレ・ブレ・ボケ
彼らの写真に特徴的なノーファインダーによる傾いた構図、高温現像による荒れた粒子、ピントがボケてブレた不鮮明な画面は、既存の写真美学——整った構図や美しい諧調、シャープなピントなど——に対する否定の衝動に由来しており、反写真的な表現のラディカリズムを追求するものであった。中平によればそうした写真は「視線の不確かさ、と同時に世界の不確かさをひきずりだし、それを対象化する」ものであった。
- 写真とは何か―森山大道論-『光と影』 でつかんだ 「写真」
我々は例えば、葉を葉として既に認識しており、改めて葉を凝視し、葉とは何か、とは考えない。そうした日常で当たり前と思っている物を見つめることで既成の概念に揺さぶりを掛けることはできるだろう。また、我々は、輪郭、つまり形から物を認識しようとする。猫ならこういう形だというイメージが「制度としての視覚」として植えつけられており、その形を崩すことで、写真から意味を読み取らせないようにする試みだともいえる。実際に、「猫」というキャプションがなければ、猫だとは断言できない。
低解像度のピクセル表現やCG素材を用いた映像
昨今、レトロゲームを彷彿とさせる低解像度のピクセル表現やポリゴンの粗い3DCGを用いた映像作品が増加している。
- 柳沢翔|ポカリスウェット CM
- 諭吉佳作/men|Music Video